「そー言えばさー、景が悉伽羅連れて来た時って、真昼間だったじゃん? 急いで解決したいとか言ってた割には、随分と呑気だったんじゃねい?」
先日の地蔵騒動の後、執務の合間を縫って幸の宮に遊びに来ていた景に、文太が素朴な疑問をぶつけていた。
場所は宮に近い清流流れる河の畔。
今日は天気も良いことだし、というとこで、幸の下僕も含めて外で酒宴を開いているのだ。
「ですね、本当に急いでいたのなら夜中でも押しかける筈では?」
文太の意見に同意して柳生が頷くと、それを聞いていた景は盃を手にしながらはんといつもの勝気な笑みを浮かべた。
「たった今、己に刀が振り下ろされているといった危急なら動きもするが…元々噂が出所の騒動で、人民が命の危機に晒されている訳でもなかった。たった数刻の時間差で何かが生じるとも思えなかったし、生じたらその時は運が悪かったんだろう」
(相変わらず強引な理論だ…)
自身が関わっていた事だけに口を出すのも憚られた悉伽羅が心でそう思っている脇では、幸が呑気にくぴ、と酒を飲んでいる。
そして景は、続けてその幸へと視線を向けていた。
「だが一番の理由は、夜中に押しかけてもどうせコイツは寝ているだろうと思ったからさ。夜中に起こそうと思ったところで、こっちが酷い労力を費やされるのは目に見えていたからな…だったら昼間に行った方がマシだと思ったんだが………結局、寝てたな」
「世話をかけるのう」
呆れる相手に、仁王も少し同情できるところがあるのか珍しく詫びの言葉を口にする。
「幸様、もしかして寝起きは悪いんですか?」
今度は桜姫が素朴な疑問を口にしたが、それにすぐに答える者は誰もいなかった。
「…………まぁ、寝起きが悪いというか」
「意地で起きないと言った方が正しい」
弦と蓮が渋い顔でそう言ったが、それ以上は何となく突っ込みにくい雰囲気だ…
「軽い昼寝ぐらいなら問題ないんだけどさ…本格的に寝ている幸主を起こすには命を賭ける覚悟が…」
赤也の顔色も何とはなしに青くなっている…という事は、経験があるのだろうか?
「…えー?」
いつも優しい神なだけに想像が出来ない…と空を見上げて考え込んでしまった桜に、景が溜息をついて当の本人へと話を振った。
「ったく、幸。お前もいい加減、少しは神らしく毅然としたらどうなんだ………幸?」
何故か返事がない相手に、訝しんだ景が再び呼びかけてみたのだが…
「…………すう」
周囲の話の内容も物ともせずに、幸は早速昼寝を決め込もうと思ったのか、座ったままで眠っていた。
「…寝とるで」
唯一、景の僕でついてきていた侑士が呆れた口調で言う。
「言ってる傍からこれか!!」
吾が客として来ているのに良い度胸だ!と怒る帝に対し、まぁまぁと幸の僕が抑えにかかる。
「おめーの僕にも似たようなヤツいんじゃんか!」
「少なくともアイツは呼べば起きるし寝起きで山を潰したりもしない! 思い出したぞ! あの時も幸のお陰で近隣の地図を全て書き直さなければならなくなったんだ!!」
「ああっ!! 自分の所為じゃないけど、取り敢えずゴメンナサイ!!」
大騒ぎ
その騒動の所為で、桜姫は肝心の『どうしてそこまで幸は眠ってばかりいるのか』という理由については、遂に教えてもらえなかった…
「悉伽羅の家出」の後日談ですね。悉伽羅と出会った景達が早く事件を解決したいと言っていた割には、幸の助力を借りようと決めてから行動したのは次の日の昼間でした。ま、裏ではこういう事情があったんだよってコトで。本日初めて追加したカテゴリーの裏話は、サイトの作品の裏話や後日談みたいなのが浮かんだらちょろっと書いて載せてみようと思います。でも多分、このカテゴリーの更新は滅多にないだろうな。
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